生きた歌丸拝んできました

劇場の、客席のドアが順次閉められてゆき、上手前にある4つ目の、最後の扉が閉められていよいよ出囃子が流れはじめ、拍手。

緞帳が上がるとともにまず朱色の高座が見え、次に頭を下げた小柄な人物が、ゆっくりと顔を…その緩やかな動きに合わせて綺麗に前明かりが入り、ぅう、う、う、ううぅぅううう歌丸だああああぁぁあああぁぁ!!!!!

大拍手!!!!!!!

時は来たれり!
会えて嬉しい見て嬉しい
今から始まる歌丸師匠
やっとこれから味わえる!

心得たもので、師匠は己が姿を見せるため間を少し長めにとり、その後、口をもごもご、聞こえても聞き取れなくても良いような「いやいや本日は」的なことを、わざとマイクで拾えないような小声で話し、お客に「えっ?なになに?」と思わせ手を止めさせ、その大拍手を収める。

最初に、誰もが気になっていたインフルエンザ事件について。
1月5日、国立劇場の高座の途中で声が出なくなり中断、楽屋で熱を計ったら40度。
その後、意識なし。救急搬送。

インフル何回もかかったけど2週間も入院したのは初めて。入院生活のつまらなさ。とりあえずTVみてた。でも最近のTVもつまらないね!ひとしきりTV批評。

観客(入院あるある)

個人名やテレビ局などもライブなら言える。どの番組もつまらない。あんなのやこんなのが出てて、わいわい騒ぐだけ。何だあんなの。面白くない。面白いのは笑点だけ!

観客(この後帰ったら笑点見るし)※日曜

褒められるのを待ってても誰も褒めてくれないから自分で褒めることにしました。笑点の裏話。5月15日から50周年。それを記念して日テレとどこで公開録画するか話していた。まずニューヨーク。ハワイ。パリ。ロンドン。

なんかじゃやりませんいつもの後楽園ホールですね。1回目から出てるのは私だけ。当時の写真見たらびっくり。ここから髪が生えていた!

観客笑い(鉄板だし)

私(サス、ゲージFullだし)

座布団10枚たまると何処かへ行けるとか言ってるけどホントに行くのかよ、と当時思ってた。色んなお金がかかる企画ばかりだったから。でもその中でも一番金がかかった景品の時に私が10枚取ってしまった。オリンピック本場、アテネへ行ってフルマラソン

観客笑い(42.195?!)

いやでもTVもつまらないながらも色々見てると意外に面白い番組もある。例えばNHKの川柳コーナー。最近、川柳流行ってるんでしょ?新聞欄にも必ずあるし。結構みんなうまいんだよね。いくつか紹介。

笑い。

川柳って落語とも深い関係がある。この噺に入る前のマクラという部分で、噺のテーマになる川柳を出したりなどは定番のやり方。だから暇な時にはネタにするため江戸時代に流行った川柳の本を眺めたりしてる。

それで気づいたのが、当時、一番多かった川柳のネタは…何だったと思う?それは、間男!その代表例としてまたいくつか川柳を紹介。ご対面しちゃって亭主は刀、間男は抜き身の…などなどかなり具体的

あと良くあるのが商家の旦那が若いのを連れて来ておかみさんに紹介して、今度から世話するから可愛がってくれな、とか言われて別の意味で可愛がっちゃうとか。

でもやっぱり若いもんにとっては肩身が狭い、旦那に顔向けできない。それでおかみさんにやっぱりやめようと言いに行くがなかなか言い出せず…





と川柳の解説を聞いてたはずがいつの間にか間男とおかみさんが玄関先で話している。噺が始まっていた。

『紙入れ』

主な登場人物は3人。
間男、おかみさん、亭主。

間男の、若さ故の自己中な優柔不断
おかみさんの、中年女性のいやらしさ
亭主の、ニュートラ

おかみさんの描写がすごい。
間男と話しながら、着物の襟元をちょちょ、ちょい、と舐めるように正す。
この仕草を何回もやる。
手つきがいかにもいやらしい。

これを見て初めて分かった。
多くの女性がこの様に、誰かと対面して話すときは、自分の衣服や髪やアクセサリーなどを触りながら喋る。
髪をさわって感触を確かめたり耳にかけたり、指輪の石の位置を中央に戻したり、ストールをひらっとあおって胸にかかる長さを確かめたり。

単に手持ち無沙汰ではないのだ。
人前では綺麗でいたいという心理から、喋りつつ身なりを確認しているのだ。

その綺麗でいたいという思いが強くなり欲となり色気となり誘惑となり、襟元を正す仕草をいやらしくしている。
この女性心理と仕組みを活用して「おかみさん」を描く。

声も当然、色気がある、を越えていやらしい。甘えた声、を越えて粘っこく押しつけがましい。

それに対する間男。弱い。俯いて何を喋っているのかはっきりしない。おかみさんが何を言ってもデモデモダッテ君。贔屓にしてくれる亭主に筋は通したい。そういう誠実な男でいたい。でも沼から抜け出す強さはない。おかみさんが例の仕草やせわぜわしく動くのに対し、間男は膝に手をつき肩を落としたままじっとしている。自分では動けないのだ。

亭主の登場シーンは不意の帰宅で戸を叩くところから。
左手でノックする仕草をしながら右手は扇子で高座の床面を叩き音を出す。
単純な動きが、素晴らしく美しい。
左手のマイムと右手の叩きが完全にシンクロした動き、速さ、リズム、強さ。

鍵がかかっている。最初はいつものように叩く。次は確かめるように叩く。それから大きく叩いてみる。まだ来ない。さらに大きく。

亭主の帰りによって盛り上がっていた間男とおかみさんがひっくり返りここからが見所。

お客は3人の関係を知っていておかみさんと間男がどう取り繕うのかを見る。バレてるのかバレてないのかカギは紙入れ(財布)。

間男が亭主に探りをいれる。
初めはジャブ。少しずつ聞き出す。
気弱な風情がピッタリの行動。

そして会話がついに核心をトーンと突いた、サゲ

御辞儀と拍手。
お囃子とともに緞帳。

速攻撤収するお客たち。

観客(早く帰って笑点見よ)
私(皆拍手終わるの早い)

カーテンコールとかアンケートとかないからな…スパッと終わるんだな
余韻味わってんのにそんなすぐ席立てないよ〜
あ、30秒くらいしか座ってなかったのに出るの最後になった…

いや〜〜
一生の思い出になった

多分もう、本当に本当に体に鞭打って仕事してるのだろう
ステージドリンクとして蓋付の湯呑があり中盤で飲んでいた

舞台照明としては歌手などがステージドリンクを飲む際、ピンスポットを消す
ピックアップする場面ではないからだ
つまり、あまり見せたくない
(飲みながら喋ったりパフォーマンスする人もいてそういう時はつけるけどね)

が、ある
飲む

落語界ではよくあるの?

wikiによるとCOPDで酸素吸入器を使っているとか
途中で声が出なくなって高座を降りたことが何度かあると本人も言っていた

話すスピードがかなりゆっくりで、最初はお年を召したお客に、聞き取りやすいよう配慮してるのかなと思っていたが、あれ以上は無理なのかも知れない

そしてその日に放映された笑点大喜利では、いつもはみんなの後に少し間をおいて上手出だったが、司会席に近い下手から出ていた

円楽師匠による歌丸死亡ネタなどは、心配いらないよだから笑い飛ばしてねアピールなのかも知れない

この日のことを忘れないだろう
2015年3月1日、ぶたの日